概要

えんそくとは

2004年3月1日 えんそく編集長 山崎太陽

 えんそくとは、理系学生が創った文芸同人誌である。

 某理系大学の学生達が旅行を計画し、「しおり」を作った。メンバに配ったのは旅行出発当日なので、「しおり」本来の機能は半減であるが、とにかく凝った作りのものであった。例えば、旅行に関係の無い人間からコメントをもらって掲載したり、「食事のマナー」という旅行との関連性の低いシュールな漫画を載せたり、メンバ全員の写真と紹介文という用途不明のコーナーを設けたり……。そして最後に余った見開き2ページに、メンバの1人が即興で書いた小説を収めた。すると、旅行のしおりが、文芸誌のように思えた。「まるで文芸誌みたいだ」「本格的にやったら面白そう」「でも、実際に出来るか?」

 メンバは某音楽サークルの仲間である。彼らの共通点には、文芸の「ぶ」の字も、文学の「ぶ」の字も無い。存在するのは、せいぜい物理の「ぶ」か、四部合唱の「ぶ」くらい。執筆経験者は1人だけ。他は、そもそも読書家ですらない。しかもWeb上での発表ならまだしも、いきなり本を作ろうというのだ。なかなか無謀な試みである。でも、とりあえず……

「やってみよう」

 発行日は1ヵ月後2004年3月1日に設定。各自新鮮な気持ちで執筆をする。コラムを書いてくれる仲間も出来た。文芸誌らしく、ゲストを呼んで座談会もしてみた。いざ、編集。

 2月23日(月)。一つの疑問が上がった。当時私が持っていた「Illustrator」で80ページの本を作るのはあまりに困難、いや、それは最早不可能と呼称するのが妥当。思い切って「In Design」を購入する事にした。大学生協では、アカデミック版が3万円で売っていた。それを買おうと手を伸ばすと、そのすぐ真上に、他のグラフィックソフトを多数含むパック商品が7万円(破格)で売っていたのだ。迷った。7万円の買い物を簡単には決められる性格ではない。しかし、パック商品の方が明らかに得である。財布と相談……50円しかない。単体すら買えない。いや、それ以前に、今月どうやって暮らそうか。そこに救いの手が。後に「えんそく」顧問を務める事になる星氏は言った。「金なら貸すから、欲しいんならそっち(7万円)を買いなよ」

 2月29日(日)。全ての原稿が揃った。買ったばかりのソフトに戸惑いながらも、型に文章を流し込んだ。……素晴らしい! まるで本みたいだ! 校正をサクサク終わらせた。小説は3本だけなので、それほど時間はかからなかった。グラフィック化もノンブルも柱も面付けも、うまくいくか分からないけど「やってみよう」というノリでこなしてきた。奇跡が連続した。「やってみよう」を何回言ったか分からない。

 3月1日(月)。製本。ボンドで出来るのか? やってみよう。ボンドの量はこんなものか? やってみよう。いつしか、「やってみよう」は合言葉になり、そのまま本のコンセプトになった。そして遂に、完全に自分達の手で作り上げた、オリジナルの文芸誌がこの世に誕生した。

 このようにして生まれた、文芸誌「えんそく」。誌名は、旅行のしおりに付けたタイトル「えんそく」から取った。一般に文芸というものは、理系学生にとって必ずしも馴染み深い存在でないが、やってみたい、目標に向かって一歩一歩前進していきたい、そんな決意を込めて選んだ名前である。

「おうちに着くまでが遠足ですよ」と人は言う。だが、私達の「えんそく」に終わりは無い。

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